武重 伸秀氏
「広島品質工学研究会は広島の産業に貢献するのが目的。自主的に活動する『おじさん集団』です」。会長の武重伸秀さんは研究会の意義や特徴をこのように説明する。武重さんはマツダの車両開発本部エキスパートエンジニア。長年、技術開発や技術者の教育をリードしてきた。ほかのメンバーもマツダ、リョービ、あじかん、広島県庁と地域を代表する企業や行政の在籍者が多い。全員、品質工学などによる開発技術に精通している。研究会は武重さんがマツダの技術動向を講演したり、品質工学や品質管理などの最新の技術を教えるアドバンス研究会を開いたりしている。アドバンス研究会は中小企業などが自由に参加でき、技術の悩みも相談できる。技術の個別指導も引き受け、安心して指導を受けられるよう機密保持契約を結ぶ。製品開発の課題を解決したいと相談に来れば、メンバーと一緒になって和気あいあいと知恵を絞る。時には時間を忘れて熱中し、解決策を探り出す。
コロナ禍の2021年5月には広島のモノづくりの向上を目的に広島経済同友会と協力し、経営者ら同友会会員にオンライン講演会を開いた。経営者に品質工学など技術論を説明するのは珍しく、35人が参加した。開催後にはアンケートを実施した結果、産業に広く役立つ品質工学の魅力に加え、技術の向上や人材育成の観点からも高い関心が寄せられた。広島を元気にしようとする熱い思いは、広島品質工学研究会も同友会も変わらない。同友会とは今後も協業を続ける。アドバンス研究会は技術の用語から最新動向まで広く議論する。参加すれば第一線の技術者らから学べて、技術の適切な理解や実践に役立つ。それまでもやもやとしていた疑問を解決できる参加者が多いという。個別指導では地場産業の技術的な課題解決を後押ししている。
広島品質工学研究会は再出発するまでに、多くのハードルを乗り越えてきた。母体は、広島市工業技術センターが93年に設立した品質工学研究会にさかのぼる。自動車産業のメッカである広島は当時、マツダにフォードが資本参加するなどグローバル化が進み、マツダも、すそ野が広い協力企業も、生き残りをかけた競争力向上を強く迫られていた。そこで地域の自動車産業を品質工学でレベルアップしようと、産官が手を携えて研究会は発足した。当初のメンバーはマツダや協力企業の技術者が中心だった。旧通商産業省工業技術院(現産業技術総合研究所)で力学部長を務めた元品質工学会会長の矢野宏氏が初代の講師を引き受けた。マツダは品質工学の成果を製造部門から開発部門、業務改革にまで広げ、技術力の向上につなげた。研究会は2000年、多様な業種に参加を促すため「モノづくりの機能性評価研究会」に名称を改めた。15年には広島県立総合技術研究所も共催に加わり、広島品質工学研究会へ改称した。自動車以外に研究所が振興する地場産業の技術テーマも増やし、産官連携のバックアップ体制を整えた。地域産業への技術貢献を認められ、研究会は16年に品質工学会研究発表大会で第1回日本規格協会理事長賞を授与された。