奈良県大淀町、NTN
被災地で求められる切実なニーズの一つに、仮設トイレがある。しかし発災時の迅速な移送や電源・用水、それに安心して使える室内スペースなどの確保が難しく、防災を担う自治体にはハードルが高い。奈良県大淀町が2月10日に稼働した移設可能なNTNのコンテナ製水洗・洋式トイレは、浄化設備が分離式のため容易に運べてスペースが広い。再生可能エネルギーの太陽光を電源に汚水を浄化し、排出せずに循環利用する。多発する国内の災害から学び、自治体とメーカーが協力し取り扱いやすさと快適性を両立した。平時は町営のパークゴルフ場に設置し、ひとたび災害が起これば被災地へ急送する。【2026年02月27日付】
大淀町が設置したNTNのトイレは男女別に分かれ、幅2㍍×奥行き1.7㍍と多目的トイレ並みに広さがある。トイレの建屋と、浄化設備に加え2250㍗の太陽光発電も備える建屋を分離する設計により、快適なスペースをひねり出した。汚水はトイレから建屋間の空中パイプを通り、ばっき気槽・嫌気槽・洗浄槽を備える浄化設備へ送られる。微生物で分解・浄化後に用水として再びトイレへ戻し、水洗に再利用する。洗浄槽ではオゾンで最終殺菌する。水は循環するので、排出やくみ取りが不要。処理能力は「大」の場合が規定で1日30回。設備のポンプや照明など電源はすべて太陽光で、スマホなどに給電するコンセントも便座近くに備える。手洗いの水はタンクに貯め塩素消毒する雨水を流し、上水も必要ない。手洗い後の水は汚水と合流するが、手洗い前の水は循環せず汚れない。保守・点検は年に一度設備を目視する程度。太陽光の蓄電池は5年に1回交換するだけで済む。被災地の石川県能登町にNTNが設置した太陽光・浄化設備と一体型のトイレは、日照時間の短い北国でも年間を通じ保守が不要だった。ただ、浄化用の微生物が死滅しないよう手洗い用洗剤は植物由来に限る。トイレ紙は再生紙が使えず、詰まりやすいのでモノは中に捨てられない。 大淀町の辻本眞宏町長は「外部電源がなくても自立し運営できる優れもの。公園や国立公園など設置条件が難しい場所でも使え、観光にも生かせる」と、防災に限らず多目的な用途を期待する。大淀町は災害に備え長年かけ庁舎や災害拠点病院、消防施設などの耐震性向上、避難計画などを整えてきた。2025年度からは避難所を改善するため、NTN製のほかマンホールトイレと移動型トイレも含む3タイプのトイレ整備を進めている。 導入の決め手となったのは、NTNが4㌧トラックで運べるよう設計した移設しやすい機動性の高さにある。トイレの建屋は2㌧、浄化設備の建屋は4㌧。トラックの車載クレーンを建屋のフックにかけてつり上げ、荷台に建屋一つを載せられる。辻本町長は「4㌧トラックを運転できる普通免許の職員が運べるものをぜひ導入したいと、要望をNTNに聞いてもらった」と明かす。災害が起きると交通規制により、普通免許で運転できない大きいトラックは乗り入れられない場合がある。道幅の狭い集落へ届けるのも、小さいトラックが適する。24年1月1日に発生した能登半島地震をはじめ多くの災害は、道路の寸断や渋滞で初動の救援物資が滞った。これらを教訓に、「災害時に生かせるものにしたかった」(辻本町長)と説明する。 NTNの梅本秀樹未来創造開発本部自然エネルギー商品ユニット長は「開発では軽量化に一番苦労した」と振り返る。被災者が安心して使えるようスペースの広さを優先し、スロープを設置すれば車椅子も入れるようにした。NTNは自動車や産業機械の軸受・部品メーカーで、構造物の最適設計には知見がある。ばっき気槽・嫌気槽も独自設計で、多孔質の濾過(ろか)材「ボルカナイト」に微生物を配置した。太陽光と風力を電源とする再エネのコンテナ式施設を新事業として注力しており、防災倉庫やバス停待合室、簡易トイレとして自治体に納めている。風力の羽根車を支える軸受が新事業の起点となり、トイレ開発に至っている。自動車の部品事業は顧客の品質要求が強く、適応力を新事業に生かせる。再エネで動く装置システムの電気制御技術も磨いてきた。大淀町のニーズを設計に反映し、防災の課題解決を目指した。大淀町とNTNはこれを機に、防災の包括連携協定を締結した。 大淀町はNTNのトイレ導入にあたり、国の地域防災補助金を活用した。総事業費は約2400万円で、2分の1の補助率や交付税などで町の負担額は約600万円で済む。辻本町長は「災害はいつ起こるか分からない。町以外で必要になれば、移して使ってもらう。このトイレは世界初であり、実証実験的に使っていく」と意気込む。と梅本自然エネルギー商品ユニット長.jpg)

